小手先のテクニックではなく「地道な努力」を——地域と学校で育む、次世代に必要な真の力

地域密着型の学習塾を運営する合同会社キャンパス代表の千葉と、都立小平南高等学校の小林和人校長先生による特別教育対談。学校と学習塾というそれぞれの立場から、現代の子どもたちを取り巻く教育環境や、AI時代において真に求められる学力、そして子どもの自立を促す関わり方について、本音でじっくりと語り合いました。
〜教育対談開始〜
校長自らが塾を回る理由——対話から始まる地域連携
千葉改めまして、学習塾Canpassと個別指導Polarissを運営しております、合同会社キャンパスの千葉と申します。本日は貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。校長先生の教育への思いや理念、日々のお考えなどを深く伺えればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
先日、校長先生ご自身がわざわざ当塾の校舎まで足を運んでくださったことがすごく印象的で、私自身とても嬉しかったんです。私学ではそういった取り組みを聞くこともありますが、周囲の塾関係者からも「都立の校長先生自らが塾回りに行かれるんですね」と驚きの声があがっていました。
小林校長本来なら広報担当の先生方にお任せしたり、理想を言えば学校全体で手分けをして、先生1人が3校ずつくらい回れば私の何倍もの数を回れるわけです。ただ、特に夏の時期は講習や部活動の合宿、あるいは日頃の疲れをとるための夏季休暇など、先生方は本当に忙しい。なかなか無理にお願いできることでもないなと思いましてね。「それなら、比較的時間が取れる校長自身が行った方がいいんじゃないか」と思って回り始めたんです。それでも限られていて、80校くらいしか回れていないのですが。
千葉いやいや、80校も回られているなんて本当にすごいです! お一人でそれだけの数を回られるエネルギーには心から感服いたしました。私どもの複数の校舎でお会いできたので、「本当にご自身で全部回られているんだな」と感動したんです。
中堅高校としての使命——一番広い層の能力を伸ばし、希望の進路へ
千葉では早速ですが、小平南高校について伺わせてください。一般的に小平南高校というと、「校舎や敷地がすごくきれい」「制服がかわいい」といった印象や、それから当塾にいる御校出身の社員からも聞いていたのですが、「伝統の強歩大会(健脚大会)がある」といったイメージを持つ方が多いと思います。校長先生からご覧になって、小平南高校はどのような学校でしょうか?
小林校長まさに皆さんが思われている通りの学校ですね。生徒たちの雰囲気について言えば、非常に穏やかで落ち着いている生徒が極めて多く、何事にも一生懸命に取り組んでくれる学校だなという印象を持っています。
高校というのはどうしても学力層によってある程度分類されてしまう側面がありますよね。難関国公立や私立へ大勢合格者を出す進学校もあれば、いわゆる中堅校、あるいは「これから基礎を固めて頑張りましょう」という学校など、それぞれ役割があります。その中で本校は「中堅の進学校」という位置づけになります。
この「中堅層」というのは、高校生の全体像で見ると一番人数が多いボリュームゾーンなんですね。この層の子どもたちは、捉え方によってはどちらの方向にも転び得る可能性を秘めています。だからこそ、本校に入学してくれた生徒たちには、授業や学校生活を通じてしっかりと力を蓄えてもらい、自分が本当に行きたい進路へ自信を持って進んでいけるようにしたい。理念というほど大袈裟なものではありませんが、これが私たちの最大の思いです。
千葉おっしゃる通りですね。社会を支えるボリュームゾーンである子どもたちをいかに伸ばしていくかというのは、日本の教育全体にとっても非常に重要な課題だと私も感じます。どうしてもトップ層や、逆に手厚いフォローが必要な層に目が向きがちですが、真ん中の層をしっかり持ち上げていく教育こそが大切ですよね。
小林校長ええ。そのためには、当然ながら「学力」を高めてもらうことがひとつ。そして健脚大会などに象徴されるような「体力」を高めること。そしてもうひとつ、私は学校経営計画の中で「気力」という言葉を使っています。要は「気持ちの強さ」ですね。
スクールミッションや教育目標にはよく「社会に貢献できる人材の育成」といった言葉が躍りますが、それは卒業した生徒たちがそれぞれの場所で自ずと果たしてくれるものだと思っています。ですから私自身はそこまで難しく考えすぎず、とにかく「入学した時よりも、あらゆる面で成長して世の中へ出ていってほしい」、その一心で取り組んでいます。
AI時代だからこそ求められる「基礎知識」と「地道に続ける力」

千葉今、生成AIの普及やICT化によって、教育のあり方自体が大きく変わろうとしています。従来のような「答えのある問題を暗記して解く詰め込み型の勉強」だけでは立ち行かなくなる時代と言われていますが、こうした変化の激しい時代において、子どもたちにはどのような力が必要だとお考えですか?
小林校長AIやネット環境が進歩したことで、クリックひとつで何でも答えが出てくる時代になりました。しかし、だからこそ、「その情報が本当に正しいのかどうか」を判断する力が問われていると感じます。そしてその判断を下すためには、やはり一定の基礎知識や教養が頭に入っていなければ始まりません。
最近、昔ながらの知識の詰め込みはあまり良く言われません。ですが、今のAIは平気で事実と異なる誤情報(ハルシネーション)や一方的な偏った情報を吐き出すこともありますよね。知識の土台がないままAIの情報だけを鵜呑みにして動いてしまうと、かえって危険な方向に進んでしまう恐れがあります。便利さを活かすためにも、地道に覚えるべき必要な知識はしっかりと身につけておくべきだと思います。
千葉本当にその通りですね。元となる正しい知識や教養がないと、AIが提示した答えが正しいのかどうかすら見抜けず、誤ったまま進んでしまいます。
小林校長そうなんです。そしてもうひとつ、これからの時代に何より大切なのは「地道に努力を続けられる力」だと思います。
世の中が便利になり、スポーツでも勉強でも「効率の良いやり方」の情報が溢れるようになりました。しかし、やり方が分かったからといって、すぐにそれが自分の身につくわけではありません。それをマスターし、さらに発展させるためには、結局のところ愚直にコツコツとやり続ける以外に道はないんです。近道なんて絶対にありませんから。
千葉「近道はない」、本当に響くお言葉です。御校の健脚大会もそうですよね。どんなに効率的なテクニックを探しても、自分の足で一歩ずつ進まなければゴールにはたどり着けません。
小林校長そうなんです。あの健脚大会は創立以来続いている伝統行事ですが、まさに生き方そのものなんですよね。飛び越えて特別な技でゴールに行くことはできない。一歩ずつ足を前に出すことでしか目的地に達しないという経験を高校生活の中でできることは、生徒たちにとって一生の財産であり、他校にはない誇れる部分だと思っています。
千葉私も生徒たちに「要領よくズルをして上手くやろうとする奴より、真面目に最後まで泥臭く努力し続けた奴が一番強くなるんだ」とよく話しています。表面的なノウハウやショートカットに頼るのではなく、地道な努力という「芯」を育てていくことの大切さを改めて実感いたしました。
「少人数アプローチ」と「少し上の課題」で成長を促す
千葉そういった地道な積み重ねや、小さな成功体験を生徒たちに実感させるために、学校として意識されている工夫や取り組みはございますか?
小林校長特別な「目新しい取り組み」を行っているわけではありません。日々の授業を大切にし、各教科で適切な家庭学習の課題を出し、それを地道に継続させる。これがすべての基本です。
強いて言うなら、本校では数学と英語で習熟度別授業を行っています。多くの高校では「2クラスを3グループに分ける(2クラス3展開)」ことが多いのですが、本校では「1クラスを2グループに分ける(1クラス2展開)」という形をとっています。人数をより少なく設定することで、教員の目が一人ひとりに細かく届きやすくなり、より丁寧な指導が可能になります。
千葉なるほど! あえて大掛かりで華やかな独自策を謳うのではなく、日々の授業や課題を「少人数で手厚く行う」という愚直な積み重ねこそが、御校の真の独自性であり強みなのですね。
小林校長高校生くらいになると、自分が今持っている力だけでできてしまう範囲の学習にとどまりがちになります。しかし、それでは現状維持か退化しかありません。成長するためには「少し努力しないと届かない課題」を突きつけ、適度な刺激を与えることが重要になります。
あまりにも突拍子もない難問を出してもやる気を失ってしまいますから、その生徒の能力の「ほんの少し上」の課題をどう提示できるか。教員がそうした刺激を与え、「努力したからできた」という成功体験をひとつずつ重ねさせていくこと。これこそが学校の、そして教員の真の役割だと思っています。
学校と学習塾のパートナーシップ——一人ひとりの「自立」を促すために
千葉学校と民間の学習塾が連携し、地域全体で子どもたちを育てる視点も重要だと考えております。学校のパートナーとして、学習塾にはどのような役割を期待されますか?
小林校長学校はやはり大勢の集団を相手にする場ですので、どうしても一人ひとりの細かい悩みや躓きに100%対応しきれない部分が出てきてしまいます。そうした学校の手が届ききらない部分を、個別指導や少人数制を得意とする学習塾さんにフォローしていただけると大変助かりますね。
……ただ、こんなことを学習塾の代表である千葉さんの前で言うのもなんなのですが(笑)、私自身はもともと「そこまで塾に通う必要があるのかな」と思っているタイプの人間なんですよ。自分の子どもたちにもそう言っていたくらいで。
千葉あはは、そうなんですね!(笑)
小林校長私自身が地方の田舎出身で、周りにはソロバン塾か習字教室くらいしかなく、自分で勉強するしかなかったという古い人間だからなんですけどね(笑)。でも東京のように塾がたくさんある環境だと、周りが行き始めると「行かないと不安だ」となってしまう。
ただ、どれだけ良い塾に通ったとしても、最終的に「自分がやろう」という意識を持って動かない限り、本当の結果はついてきません。「塾に行っただけで満足してしまう」状態ではもったいないわけです。だからこそ塾には、単に知識を与えるだけでなく、子どもたちが「自分でやらなきゃいけない」と主体的に気づけるような働きかけをしていただけたら嬉しいですね。
千葉まったくおっしゃる通りだと思います。実は私自身、前職の大手学習塾時代に、夏期講習などで何十万円もの高額なプランを当然のように提示する業界のあり方に強い疑問と違和感を抱いていたんです。「本当にこの子にそこまでの講座が必要なのか」「高額な講習に通わせるだけで、本人の主体性が育っていなければ意味がないのではないか」と。
ですから自分で学習塾(Canpass・Polariss)を立ち上げた際は、そうした過度な講習販売は一切やめ、明朗な料金体系で、何より「子どもたちが自発的に勉強に向かい、自立して学べる状態を作る」ことをコンセプトに据えました。
小林校長いやあ、それは本当に素晴らしい取り組みですね! 親御さんは子どもを想う一心で提示された金額を無理して払ってしまうものです。だから、そうやって生徒の自立を一番に考えて経営されているのは本当に信頼できることだと思います。
直感を信じる学校選び——門をくぐった時の「感覚」を大切に
千葉それでは最後に、これから志望校選びを行う中学生やその保護者の皆様に向けて、メッセージやアドバイスをいただけますでしょうか。
小林校長私自身の体験でもあるのですが、受験生の皆さんには「校門をくぐって一歩足を踏み入れた瞬間の感覚」を大切にしてほしいと思っています。
学校選びにおいて、進学実績のデータや「ここがいい取り組みをしている」といった評判も参考になりますが、実際にその学校に足を運んだときに「あ、この学校いいな」と感じる直感というのは、すごく当たっていると思うんです。エビデンスがあるわけではありませんが、その場の空気感や、そこにいる生徒・先生方の表情から無意識に受け取るものがあるはずです。
千葉「一歩足を踏み入れた時の感覚」、非常に共感いたします。説明会などの言葉だけでは作れない、学校全体のリアルな雰囲気がそこに凝縮されていますよね。
私自身、今日こうして小平南高校にお伺いした際、まず敷地や校舎内がとても清々しく整備されていることに感銘を受けました。そして車を停めてから校舎に入るまで、すれ違う先生方が皆さん笑顔で挨拶を返してくださったんです。さらに以前校長先生が当塾に直接いらしてくださった際の誠実なお人柄も思い返され、門をくぐってからお会いするまでの間、終始とても温かく心地よい感覚を抱いておりました。
小林校長本当ですか? そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。いろいろ偉そうなことを言っていますが、自分自身もまだまだ葛藤の連続です。「自分はどれだけ挑戦できているだろうか」と反省してばかりの毎日なのですが……。
でも、説明会で良いことばかりを並べるセールストークを聞くよりも、実際に足を運んで肌で感じた「直感」こそが、一番失敗のない学校選びにつながると思います。いくつか気になる学校へ足を運び、自分の感覚に素直になって志望校を選んでみてください。
千葉数字や表面的な情報だけにとらわれず、実際の肌感覚を信じることの大切さ、受験生にとっても大変貴重なメッセージとなりました。校長先生の飾らない誠実なお人柄と、ブレない教育理念に触れることができ、小平南高校の素晴らしさを深く実感いたしました。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!

都立 小平南高等学校





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