「自立した学習者」を育てる——進学指導重点校が実践する、生徒の可能性を最大限に引き出す教育

合同会社キャンパス代表の千葉と、都立トップ校として知られる進学指導重点校の立川高校の鈴木宏治校長先生による特別対談。偏差値や進学実績といった表面的なデータだけでは見えてこない「学校選びの本質」や、これからの時代に求められる「自立した学習者」の育成について、教育の最前線で生徒たちと向き合う二人が熱く語り合いました。学校選びに悩む中学生や保護者の方々、そして次世代の教育に関心を持つすべての方へ向けた、珠玉のメッセージをお届けします。
〜教育対談開始〜
千葉鈴木校長先生、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。我々のような地域の学習塾にとっても、立川高校さんは生徒たちが憧れる大きな目標です。本日は学校説明会などではなかなか聞けないような、深いお話をお伺いできればと思っております。よろしくお願いいたします。
鈴木校長よろしくお願いします。毎年夏休みの学校見学会には2000人を超える方が来てくださるのですが、私は最初に「パンフレットはどの学校もいいことしか書いていない(笑)学校選びは、実はパンフレットに書いていないことの方が大事なんですよ」とお伝えしているんです。
千葉確かに、どの学校のパンフレットも魅力的に作られていますから、中学生や保護者の方にとっては「本当の姿」が見えにくい部分があるかもしれませんね。高校受験における学校選びにおいて、校長先生はどのようなアドバイスをされていますか?
鈴木校長中学受験は保護者の皆さんの考えが大きく反映される傾向がありますが、高校受験は自分で学校を選べる初めての機会と言ってよいと思います。都立高校の場合はみんなスタートラインが一緒ですから、本当に自分の行きたいところに行けばいいんです。本校を気に入ってくれたらもちろん嬉しいですが、「本当にワクワクする学校が他にあるなら、そっちに行った方がいいよ」と素直に伝えています。
千葉学校側から「他校でもいい」と背中を押してくださるのは驚きです。それだけ、生徒自身の「ここで学びたい」という意志を尊重されているのですね。
鈴木校長そうですね。保護者からすれば、子どもが毎日元気に通ってくれることが一番ですよね。学校が楽しくて、居心地が良ければ、子どもは自然と勉強もするようになります。私は生徒たちに「遊ぶときは思い切り遊べ」とも言っているんです。部活でも行事でも、周りを巻き込んで全力で楽しむ経験が、生きていく上では絶対に必要ですから。
千葉コミュニケーション能力や周りを見る力は、机上の勉強だけではなかなか身につきませんね。
鈴木校長おっしゃる通りです。例えば、将来社会に出た時に、イベントのセッティングなどが上手な人っていますよね。全体に気を配り、相手が心地よく過ごせるように段取りができる。そういう客観的に自分と周りを見て、今やるべきことが分かっている人は、仕事も絶対にできる人だと思います。学力だけでは測れない、そういった「人の魅力」を高校3年間で培ってほしいと思っています。
立川高校が掲げる「自立した学習者」と、独自の「勉強SSH」
千葉立川高校といえば「進学指導重点校」として東京都から指定されていますが、やはり学力向上や進学実績へのプレッシャーもあるのではないでしょうか?
鈴木校長進学指導重点校として出口(進学実績)の保障はもちろん大切です。実績を出すことで、生徒や保護者の方に安心してもらう責任があります。ただ、立川高校は東京都から枠をはめられなくとも、昔から立派な進学校としての伝統があります。私は入り口(入学者)と出口の両方にこだわっています。
千葉入り口と出口のこだわりについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
鈴木校長まず入り口ですが、ありがたいことに本校は高い倍率を維持しています。これは多くの中学生や保護者の方から「この学校に通わせたい」と思ってもらえている証拠です。優秀な生徒たちが集まり、お互いに切磋琢磨する環境があるからこそ、数年後の出口に繋がっていく。入り口の段階でどこを目指しているかを聞くと、やはり東大や一橋など高い目標を持っている生徒が多いです。
千葉そうした高い志を持った生徒たちに対して、学校としてどのようなメッセージを発信されているのでしょうか。
鈴木校長私は赴任して以来、「自立した学習者になりなさい」とずっと伝え続けています。これさえあれば、進学実績は後から必ずついてきます。そこで私が提唱しているのが「勉強のSSH」です。
千葉SSHというと「スーパーサイエンスハイスクール」のことかと思いますが、勉強のSSHとはどういう意味でしょうか?
鈴木校長私のオリジナルの造語なんです(笑)。
S (Selection):選択。 今、自分は何をすべきか等、どの教材を使うべきかを選ぶ力。
S (Shuuchuuryoku):集中力。
H (Hour):時間。
自分で最適解を選んで、集中して、時間をかける。「S × S × H」が揃えば、学力は必ず伸びます。塾に通うにしても、学校の自習室を使うにしても、自分で考えて選ぶ「自立」が一番大事なんです。
千葉「S × S × H」、私たち学習塾の立場からも非常に納得感のある方程式です。自ら課題を見つけて取り組む子は、確かに成績の伸びが違います。
鈴木校長きっとそうですよね。だから生徒たちには、「今しかできないことを、今、積み上げなさい。とにかく今は『今を、つめ』」と言っています。勉強だけで人間の価値が決まるわけではありません。授業だったら授業、部活だったら部活を一生懸命やる。「今」を頑張れる人は素敵です。今をしっかり積み上げることで、将来への確かな土台ができていくんです。勉強って、偏差値を上げるためだけのものではなく、本来は「自分の世界を広げること」であり、「判断力を鍛えること」なんですね。
千葉「判断力を鍛える」というのは、具体的にはどういうことでしょうか?
鈴木校長例えば数学です。三角関数や微積分を将来そのまま使う人は研究者くらいかもしれません。ではなぜ学ぶのか。それは、論理的な条件の中から最適解を見つけ出す訓練をしているからです。「なぜこうなるのか」と日々考えることで、いざという時に自分で判断して動ける力が養われます。これは防災や災害の時にも通じる、生き残るための力なんですよ。決して数学を勉強させるために言いくるめようとしている訳ではありません(笑)
良い情報も悪い情報もすべて開示する「信頼の学校経営」

千葉先生は学校説明会で、生徒たちのリアルなアンケート結果や、包み隠さない進学データを出されているとお聞きしました。それはどのような意図があるのでしょうか。
鈴木校長学校と生徒の「ミスマッチ」をなくしたいからです。入ってから「こんなはずじゃなかった」と後悔してほしくない。だから、生徒たちに「なんで立川高校を選んだの?」というアンケートをとり、それをそのまま中学生に見せています。「家から近いから」「SSHだから」「兄姉が通っていたから」「先輩の姿に憧れて」など、本当にリアルな声です。
千葉良い意見だけを抽出するのではなく、生の声をそのまま見せるのは、学校としての強い自信を感じます。
鈴木校長自信というか、リアルを届けたい。実態を知ってもらった上で、自分に合っているかを感じてほしいんです。本校は「好きなことを気の合う仲間ととことんやれる学校」です。全員で一つのことに熱中する行事メインの学校が合う子もいれば、うちのような環境が合う子もいる。選ぶのは中学生自身です。
千葉進学実績の見せ方にも、独自のこだわりがあると伺いました。
鈴木校長はい。「合格者数」ではなく「実際の進学者数」を明確に示しています。例えば私立大学の場合、1人の優秀な生徒がいくつも学部を併願して合格数を稼ぐことがあります。パンフレットの「合格者数」だけを見ると、特定の大学にたくさん行っているように見えますが、実態は違います。
千葉確かに、合格者数と進学者数では大きな乖離があるケースは珍しくありませんね。保護者の方からすると、非常に誠実なデータ開示だと感じます。
鈴木校長進学指導重点校である以上、私は進路保障という点で、「卒業生が最終的にどこに進学したのか」という出口をすべてさらけ出すべきだと考えています。それが信頼に繋がると信じています。実際、本校は国公立や早慶レベルへの進学者が非常に多く、理数科に至ってはクラスの4分の3が現役で国公立か早慶に進学しています。一方で浪人生も一定数います。こうした事実を正しく知っていただいた上で、選んでほしいと思っています。
立川高校の伝統「臨海教室」と、人を育てる環境
千葉立川高校には「臨海教室」という伝統的な行事がありますね。今では珍しくなったと聞きますが、どのような効果があるのでしょうか。
鈴木校長中には全く泳げない、水に顔をつけるのも怖かったという生徒も入学しています。でも、練習して泳げるようになって、本番ではみんなで隊列を組んで海を泳ぐんです。一番遅い子に合わせてみんなで泳ぐ。OBやOGが周りを囲んでサポートしてくれます。「できないと思ったけど、できた!」という経験は、生徒の大きな自信になります。
千葉身体的、精神的な限界に挑戦し、仲間と乗り越える経験ですね。
鈴木校長卒業生のスタッフが教えてくれた私が好きな言葉に、「早く行きたいなら一人で行きなさい。でも、より遠くに行きたいならみんなで行きなさい」というものがあります。勉強も部活動も同じです。一人でやれば自分だけは早く進めるかもしれない。でも、自分の限界を超えて一つ上のランクを目指すなら、みんなで一緒に努力し、励まし合う環境が必要です。臨海教室はまさにそれを体現しています。
千葉スマホも預けてしまうとお聞きしました。
鈴木校長はい、期間中はスマホを一切触らせません。そうすると、生徒たちはお互いに喋るしかない(笑)。掃除も食事の準備も自分たちでやります。「仕事は自ら求めよ」が合言葉です。普段とは真逆の不便な生活ですが、集団で過ごすことで確実に絆が深まります。
千葉学習塾でも、自習室で周りが頑張っている環境があるからこそ、辛い受験勉強を乗り越えられる生徒はたくさんいます。「みんなで行く」ことの強さは、私たちも日々感じています。
鈴木校長そうですよね。私は生徒たちに「若さの特権は失敗できることだ」と伝えています。今の高校生の中には失敗を極端に恐れる生徒もいると思います。「試合に出て負けたくないから、そもそも試合に出たくない」と考える生徒も。でも、失敗はチャレンジしないと生まれません。むしろ失敗から学ぶことのほうが多いと思います。失敗した自分を責めるよりも、チャレンジした自分を褒めてほしいです。失敗したって命を取られるわけじゃないんですから、どんどん挑戦してほしいですね。
教師の役割は「背中をそっと押す」こと
千葉生徒がチャレンジし、自立していく過程で、学校の先生方はどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。
鈴木校長教師の役割は「ちょうどいいを見極める」ことだと思っています。私はもともと生物の教員ですが、植物は放っておいても、自分が持つ遺伝子の力で勝手に育ちます。でも、しおれてきたら水をあげたり、日に当てたりしなければならない。一方で、四六時中水をあげていたら根腐れしてしまいます。
千葉手をかけすぎてもいけない、ということですね。
鈴木校長そう思います。保護者にもお伝えしていますが、親の期待が大きすぎると子どもは弱ってしまいます。私は保護者会でも保護者(保護する人)から自立支援者になっていただきたいという話をしています。勝手に育つ時は見守り、少し弱ってきたら適切な声をかける。その見極めができる先生が一流です。
千葉学習塾の講師にも全く同じことが言えます。先回りして教えすぎるのではなく、生徒が自分で気づくタイミングを待つ忍耐が必要ですね。
鈴木校長本当にそうですね。一番素晴らしい先生は、「本人が気づかないところで、背中をそっと押せる先生」です。「俺が教えたんだ」と前に出るのではなく、生徒自身に「自分が頑張ってここまできたんだ」と思わせる。大学の魅力や将来の可能性を語り、「ここ、君に合ってるんじゃない?」とヒントを与える。そうやって自分の意志で目標を決めた生徒は、本当に強いですよ。簡単に諦めなくなると思います。
千葉「自分の意志で決める」ことが、最後までやり抜く力になるのですね。
鈴木校長山登りと同じです。登らされる山ではなく、自ら登ろうと決めた山です。歩いている時は足元しか見えず、「本当に頂上に近づいているのか」と不安になります。でも、我慢して地道につまらないと思えることでも積み重ねていれば、必ず景色が開ける。高い山ほど登るのは難しい。でも高い山ほど景色は素晴らしいはずです。そういう経験を通じて、人を育てたいんです。
探究活動と、これからの時代に求められる力
千葉課題研究や探究活動にも非常に力を入れられていますね。先ほど資料を拝見して、テーマの多様さに驚きました。
鈴木校長アニメについて研究する子もいれば、歴史や科学を研究する子もいます。本校ではテーマを一切縛りません。「やらされ探究」ほどつまらなくて意味のないものはありませんから。生徒たちが日常で感じた疑問をテーマに、大学の先生をお招きして発表したり、議論したりしています。
千葉そうした活動が、総合型選抜(旧AO入試)などの実績にも繋がっているのですね。これからの時代、大学や社会が求める人材像とも合致しているように感じます。
鈴木校長今や知識はスマホで10秒で検索できる時代です。ただ知識を暗記してテストで点を取るだけの勉強は、もう通用しなくなってきます。「今何が課題で、誰に頼り、どうやって解決するか」という課題解決能力こそが求められています。東大の先生も立高から生徒をどんどん送って欲しいと言ってくれますよ(笑)
千葉点数を取ることに特化して勉強してきた生徒が、大学に入ってから「何を研究すればいいか分からない」と戸惑うケースがあると聞きます。
鈴木校長大学の先生方も、「次は何をすればいいですか?」と指示待ちになる学生は欲しくないと思います。本校の理数科の生徒たちは、自分たちのことを喜んで「変人」と呼ぶことがあります(笑)。何かに特化して、疑問を持ち、考え続ける「思考体力」がある。そういう「出る杭」を、私たちはさらに突き抜けさせて、誰も叩けないレベルまで伸ばしてあげたいと思っています。
受験生・保護者へのメッセージ「過去最高の努力を」
千葉最後に、これから高校選びを本格化させる中学生、そして保護者の皆様へメッセージをお願いいたします。
鈴木校長まず中学生の皆さんには、「この1年間、過去最高の努力を続けてほしい」と伝えたいです。一生懸命頑張った経験は、違う自分に出会わせてくれますし、その先の何十年の人生を変える財産になります。
千葉「志望校群」という考え方も提唱されていましたね。
鈴木校長はい。これから数ヶ月で実力はまだまだ伸びます。「ここがダメならあそこ、伸びてきたらあそこ」というように、第一志望の都立と併願の私立など、自分の「志望校群」をしっかり決めること。そして、その群の中で一番上を目指してほしいんです。
千葉目標は高く持った方が良い、と。
鈴木校長はい。本校を例に出すと、「自校問題作成校は難しいから」と最初から避けるのではなく、少しでも実力がついてきたらチャレンジしてみてください。上を目指して準備をしていれば、結果的に共通問題の学校になっても十分対応できます。オール4程度の内申点でも、本番の当日点でいくらでも逆転は可能です。「本当に行きたい学校」があるなら、後悔しないように挑戦してほしいですね。
千葉「どこにワクワクするか」を基準に、自分で決断することが大切ですね。
鈴木校長学校選びに正解はありません。本当に通いたいと思う基準は、人によっていろいろあります。偏差値が高いとか進学実績がすごくいいから選ぶというのもいいし、うちみたいにいろんなことができる学校を選ぶのもいい。何にワクワクするかって、人によって違うんですよ。部活を一生懸命やっている学校にすごくワクワクする生徒もいるじゃないですか。でも、それでいいと思うんです。
だからこそ、高校生になるんだから、親に言われるままではなくて自分でしっかり考えて決めてほしい。その代わり、親や他人に責任を押し付けるな、と。自分で選んだ学校なんだからちゃんと自分で責任を持って最後まで頑張りなさい、ということは伝えたいですね。たくさん迷って、自分が本当に「通いたい!」とワクワクする学校を見つけてください。
千葉鈴木校長先生の生徒を信じる温かいまなざしと、教育に対する揺るぎない信念に、私自身も塾人として大変刺激を受けました。本日は長時間にわたり、本当にありがとうございました。
鈴木校長こちらこそ、好き勝手に喋らせていただきました(笑)。ありがとうございました。

都立立川高等学校





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