「人間らしく生きる」ための教育と、「子どもを信じる力」とは

〜教育対談開始〜
千葉学習塾Canpassと個別指導Polarissを運営しております、合同会社キャンパスの千葉と申します。本日は教育対談、よろしくお願いいたします。
平川校長東京電機大学中学校・高等学校の平川と申します。こちらこそお声掛けいただき大変光栄に思っております。よろしくお願いいたします。
「オープンな校長室」
千葉よろしくお願いいたします。私は学習塾の代表として、自分が事務所に引きこもるのが良くないと思い、なるべく色々な校舎に出向いて社員一人ひとりと話すようにしています。ただ、どうしても自分にしかできない仕事をする時には、閉じこもらなきゃいけない場所も必要だなと感じています。その辺り、校長先生はいかがですか?
平川校長もちろん立場上、教員や生徒から個人的な相談を受けることもありますので、そういうときはドアを閉めて話を聞きますが、いつもは校長室のドアを開けてあります。これは実は何代か前の校長からそういう文化が始まっていて、「ドアを開けて、生徒や教員がいつでも相談に来られるような環境」にしているんです。
さまざまなタイミングで提供する「思春期の教育」 と 外部連携
平川校長本校では毎学期の期末考査が終わって終業式までの間は「総合学習の期間」として、特別編成で授業をしています。高校生は学年ごとに小論文の模擬試験をやったり、中学生には外部講師を招いて「思春期講習会」をやったりして、男女交際についてですとか、成長に伴う悩みについてお話ししてもらっています。なかなか親や教員からは言いづらいこともありますし、専門の方は生徒の反応を見ながら上手に話をしてくれます。
千葉年齢や時期に合わせて、そういったお話をされているのですか。
平川校長いえ、学習指導要領で決まっている教科内容とは違って、むしろ思春期に抱える悩みは、ある子にとっては「まだまだ先」の話でも、ある子にとっては「今すぐ必要」だったりします。一度やったらおしまいではなく、いろいろなタイミングで繰り返しやらなきゃいけないなと思いますね。「今、聞きたいんです」という子もいますから。
昨日は高校の文化講演会も実施しました。学園(東京電機大)の卒業生でもある「沖電気」の社員の方をお招きしたんです。(沖電気は)去年NHKの『魔改造の夜』という番組に出られまして、その時のエピソードとして、技術者としての意地やプライドの激突があった話は印象的でした。高校1年生~3年生まで聴講しましたが、どの学年からも質問が多くて、終わった後も講師の方のところへ行って質問をしていましたね。
千葉今実際に働いている大人が、夢を持って熱心に語る姿ってなかなか見られないと思うので、とてもいいですね。
平川校長そうなんですよ。教員というのは教壇の上で「なんでも知っている」ように話しがちですが、知らないこともたくさんあります。社会で活躍されている方々に協力してもらいながら、生徒に話を聞いてもらう機会を与えるのは大事かなと思いますね。
「校長室のドア」が開いているからこそ聞けた、高校3年生の悩み
平川校長さっきの「校長室を開けておく」という話に戻るのですが、私自身が閉じこもっていると、先生方とのコミュニケーションがおろそかになりますし、生徒の様子も見られません。本当に彼らが何を考え、何を思っているのか。だからできるだけ風通しは良くしています。そうしたら昨日、こんなことがあったんです。高校生の文化講演会が始まる前に、校長室に高校3年生の男子が一人入ってきたんですね。中学からの一貫生ですが、6年間いて彼が私のところに来たのは初めてでした。
「どうしたの?」と聞くと、「ちょっとお話ししていいですか」と。話を聞いてみると、彼は医学部を目指していて、将来は医者になりたいそうです。ただ、「勉強だけではダメだと最近思うようになりました。患者さんとちゃんと意思疎通をして、相手の話を聞いたり伝えたりするのが大事だと思ったんです」と言うんですね。
そして、彼が私に何を聞きに来たかというと、「校長先生は、全校集会や朝礼で前に出て話をする時、何に気をつけて話しているんですか?」と。これにはびっくりしちゃって(笑)。
千葉それは、校長先生のお話をそれだけ真剣に聞いてくれていたという、信頼の証ですよ。
平川校長「自分の話したいこと以上に、聞き手が何を聞きたいと思っているのかを考えて話す。ただ、お医者さんの場合は、一方的に話すこと以上に『相手の話を聞くこと』が大事なんじゃないの?」という話をしたら、「確かにそうですね」と納得して帰っていきました。なるほど、彼がそういうことを悩んで考えていたのかというのは、直接話さなければ分からないことでしたね。ここを開けておくとそういうこともできるので、プラスになるのかなと思います。
千葉開けているからこそ聞けたお話ですね。閉め切っていたら、なかなかノックして入ってくるのは勇気がいりますから。直接校長先生にお話を聞きに行ける関係性がまた素敵だなと思います。普段からの環境づくりや、生徒への直接の挨拶なども含まれているんでしょうね。
平川校長中1の時から(朝、校門に立って生徒たちに)挨拶をしているので、そういう意味ではハードルは高くないのかもしれません。子どもの時から知っている「親戚のおじさん」くらいのものになっているのかも(笑)。卒業生も時々顔を出して、ここで話していくこともありますよ。
コロナ禍を越えて育った卒業生のエピソード

千葉私が塾を立ち上げて、一番最初に中学受験部で作ったコースに来ていた子が、東京電機大学中高に入学しました。彼が入学したのが、ちょうど平川先生が校長に変わられたタイミング(6年前)だったんです。彼と話していた時、「校長先生が変わって、教育熱心な方で学校が変わった!」と言っていたのを覚えています。
平川校長生徒がそんな風に感じてくれていたんですか? 前の校長も熱心でしたから、私だからというわけではないですけれども(笑)。その生徒さんはちょうどコロナで大変な時期に入学された学年ですよね。入って何もできなかった時期があって、それが終わっていろんなことができるようになった時に、たまたま私が校長だったから、そんな風に感じてくれたのかもしれないですね。でもそう思ってくれるのは大変ありがたいです。
千葉先ほどの医学部志望の高校3年生のお話の中で、まさに貴校の「人間らしく生きる」という教育理念の成果だと感じました。「勉強だけできればいい、偏差値だけ上げればいい」と突き進むのではなく、「そうじゃない」と気づいて校長先生に直接話を聞きに来る。そのあたりについて詳しくお聞かせいただけますか?
平川校長多くの生徒にとって最終的に「大学受験」が大きな関門になりますから、どうしても偏差値をどう上げるかということに腐心しがちです。ただ、それだけが目的なのかと考えると、やはり受験は「通過点」であり、その先に何を目指すのかが大事です。
先ほどの医学部を目指す子も、震災などの経験を通じて「本当に困っている人を助けたい。自分にとってはそれが医者なんだ」と語ってくれました。入試を突破することを目的にせず、自分が何のためにそれをやりたいかを考えてくれているのは、「人間らしく生きる」という理念を理解してくれているのだと感じます。
千葉そういった学校の理念や先生の教育への思いは、現場の先生方にはどのように浸透させていらっしゃるのでしょうか?
平川校長現場の教員とも、いつでも話ができるようにしています。あとは、世代の違う先生方とは話す機会がなかなか無いので、管理職で手分けをして個別に面談をしたり、コロナ明けからは「若手研修」として、30代未満くらいの先生方を集めて私の思いを伝える機会を設けたりしています。
生徒向けに「教育理念」という言葉で直接語る機会は少ないですが、学校行事や学習以外の特別授業など、どの先生も「人間らしく生きる」という校訓を頭に入れて生徒に接しています。だから、学力一辺倒や偏差値至上主義みたいな指導をする先生は一人もいません。このあたりは私学の文化として、歴史の積み重ねが学校の雰囲気として染み付いているのかなという気がします。
だからこそ、学校を選ぶ受験生や保護者の方には、実際に学校に足を運んでみてほしいんです。パンフレットだけでは分からない、「なんだか居心地がいいな」と思える感覚を大事にしていただきたいですね。
これからの時代、AIにはできず「人(教員)」にしかできないこと
千葉これからの不確実な時代の中で、子どもたちが身につけていくべき必要な力とはどのようなものだとお考えですか?
平川校長「AIとどうやって付き合っていくか」ということは大きいです。最近のAIは本当に優秀で、間違ったことを言わなくなってきました。生徒たちは「勉強で困ったらAIに相談すればいい」となるかもしれない。その時に「じゃあ、教員は何のためにいるのか?」。これを先日、教育実習生たちに問いかけました。
AIは聞いたことに対しては答えてくれます。でも教員は、聞かれなくても話しかけますし、もっと言えば「聞きたいけど聞けない子」に対して、「元気ないね、どうしたの?」「何か悩みあるの?」と様子を“感じる”ことができる。それが教員です。学力も当然必要ですが、人と人との関係性をどう作っていくか。困った時に相談できたり、困っている人に助け舟を出せたりする力は、リアルな学校に来なければ育めません。本校はカリキュラム上、理科や情報という「一つの武器」を身につけさせますが、それを軸に、周りとどう関係性を結んでいくかが大切だと伝えています。
体験を定着させる、独自の「実験BOX」

千葉学校の独自の取り組みでいいますと、やはり理科教育に特徴がありますか。
平川校長本校の理科の先生方は自分が理科好きだから、生徒にも好きにさせたいといろいろ工夫しています。その一つが「実験BOX」です。既製品の実験器具ではなく、授業で自分で作った実験器具を一人ひとりが持っている箱の中にどんどん入れていくんです。次の授業ではまたその箱から過去の道具を取り出して使ったりして、自分がどんな体験をしてきたかが目に見える形で残ります。体験することで記憶は定着しますから、実際に見て、触って、そこに「わっ!」という感動があることは、どの授業でも大事にしています。
千葉理系の学校というイメージが強いですが、実際はいかがですか?
平川校長高校2年生から文理に分かれますが、およそ7割が理系、3割が文系です。理系色は確かに強いですが、私は説明会で「うちは理系の学校です」とはあまり言いたくないんです。3割いる文系の生徒が「自分はここにいてはいけないんじゃないか」と感じてほしくないですからね。理科好きな子が多いので特色はそこにありますが、それに縛られない自由さ、生徒の主体的な選択の余地をわたしたちは尊重しています。文系だけど理科が好きという子もたくさんいますよ。
「啐啄同時」のタイミングと、学習塾への期待
千葉校長先生のブログ「啐啄の機(そったくのき)」を拝見しました。啐啄同時という言葉の通り、私たちが熱意を持って教えたい思いと、子どもたちの勉強したい思いが重なった時に、いろんな成果が生まれると私も実感しています。
平川校長いくら教えようとしても、生徒が望んでいるタイミングでちゃんと与えられなければ効果が出ません。だからこそわたしたちは生徒を見ていなきゃいけない。全員が同じタイミングではないので、個別に声をかけたり、時期をずらして繰り返したりしながら、彼らが望もうとするようにこちらから持って行って伝えることも必要です。これもまた、AIにはできない「人間だからこそできる指導」だと思います。
千葉本当にそうですね。最後に、私たちのような民間の学習塾に対して、期待されていることがあれば教えていただけますか?
平川校長教育は学校だけでやるものではありません。塾は学力をつけて進路を実現する役割もありますが、学校で相談できない悩みを塾の先生に相談している子もたくさんいるはずです。
学校も塾も、良い意味で生徒たちに「成功体験」を与えたいですよね。中学受験などは、小学生の頃から何年も一生懸命に頑張っても、思った通りの結果が伴わないこともあります。でもそこで、どんな結果であっても「自分はやれるだけのことをやった」と思わせて支えてあげられるのは、多分塾の先生の役割ではないでしょうか。その経験が「成長」につながるのだと思います。
第一志望で入学してくれた子はもちろんですが、仮に第一志望に届かず本校に入学したとしても、今度は、そこからはわたしたちが受け止めます。すべての子たちのがんばりを認めて、これから始まる学校生活を充実させる方に目を向けさせたいと思います。「自分は負け組だ」となってしまうと、何をやっても届かなくなってしまいますから。第一志望校も第二志望校も、第三志望校にもそれぞれの良さがあることを塾の先生も本人やご家庭と確認していただけると嬉しいですね。
受験生・保護者の皆様へメッセージ
千葉これから受験を検討されている小学生・中学生、そして保護者の方に向けてメッセージをお願いいたします。
平川校長受験というのは厳しいことや、ある意味残酷なところもありますが、努力が報われる部分も大きいですし、それを信じて受験生は努力すると思います。そして、いろいろと支援しながら心配するしかない親御さんの苦しさもあると思います。
ただ、やっぱりそこで「周りの大人が子どもを信じてあげること」が、彼らの一番の力になります。太宰治の『走れメロス』には、「メロスはなぜ走ったか? 間に合うか間に合わないかが問題ではなく、信じられているから走ったのだ」というセリフがあります。
受験生も同じです。周りが信じてくれるから、自分は頑張れる。そういう気持ちで、周りの大人が支えてあげてほしいと思います。学校選びも、ぜひ足を運んで、目で見て、話を聞いて感じて、そこを目指そうと思っていただけたら…。それが本校であれば嬉しいですね
千葉素晴らしいお話をありがとうございました。
平川校長こちらこそ、ありがとうございました。

東京電機大学中学校・高等学校



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